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魯迅「故郷」。過去、現在、未来という時空。

      2018/07/16



魯迅(ろじん)の「故郷」は、筆者の大好きな作品です。

特にストーリーの結末(ラストのクライマックスシーン)が、いつまでも心に残ります。魯迅と日本の関係、そして中国との関係、書きたいことはいろいろあります。

今回「過去、現在、未来という時空」を副題として、その魅力を探っていきたいと思います。

 


室生犀星「抒情小曲集」

ふるさとは遠きにありて思ふもの

そして悲しくうたふもの

よしや

ふらぶれて異土の乞食となるとても

帰るところにあるまじや

 

「故郷」それは、誰にとっても懐かしく、しかし苦しくもあるカオスです。

魯迅の「故郷」には、混沌としたその心情が、見て取れます。そして自分の心のなかを見ているような不安に襲われます。
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魯迅「故郷」あらすじと内容について

主人公のシュンは、故郷へ帰ってきます。実家を整理し母を引き取るためです。シュンは「迅」つまり、作者のようです。

二十年ぶりの故郷はすっかり荒廃し、我が家も荒れ果てて、シュンは暗い気持ちになります。美しかった近所の女性は「コンパスのように」なり、人のあら捜しばかりします。


そんななか、幼いころ遊んだ「閏土」-ルントウがやってくる、と母から聞いて、心が弾みます。ルントウは、シュンの家の小作人の子です。幼いころ聞かされた、ルントウのふるさとの西瓜や海岸の美しい砂や貝殻の話。

そして届いた贈り物たちは、いまでもシュンにとって「神秘の宝庫」なのです。

しかし、やってきたルントウは、生活に疲れ果て、昔の面影はありません。しかも「だんな様」と、シュンを呼びます。

ただ、ルントウの連れてきた息子の「水生」-シュイションと、シュンの甥の「宏児」-ホンルは、昔の自分たちのようにすぐ仲良くなります。

家財道具は、すべて無償で譲るという母に、ルントウは必要なものだけ持っていくと言います。その中に香炉と燭台があったことに、シュンは笑ったのです。偶像崇拝もいいかげんにしろよ、と。

船に乗って故郷を離れるとき、ホンルが「いつ帰ってくるの」と尋ねます。なぜなら、シュイションの家に行く約束をしたから。でも別れのとき、ルントウはシュイシュンを連れてきませんでした。


遠ざかる故郷の山水を眺めながら、シュンは「美しい記憶が薄らぐことが、なにより悲しい」と思います。シュイションとホンルが、自分たちのようになることは望まない、とも思います。

しかし、自分のその希望はただの偶像ではないのか、ルントウの偶像崇拝となにも違わない、と恥じるのです。

満月に照らされた海の上の船に揺られながら、シュンは思います。

道は、初めからあるのではない。人が歩いて初めて、道ができるのだ。

魯迅「故郷」の魅力‥なぜ読み継がれるのか?

魯迅(ろじん)という人

とても短い文章です。ただ、いろいろな要素がありすぎて、純粋に読んでいない、という気がします。

一つは作者、魯迅とその人生。彼は20世紀初頭の激動の中国で、小説家として数々の作品を世に問いました。有名なのが「阿Q正伝」です。清朝の崩壊、辛亥革命から袁世凱の覇道、さらに日本軍の侵攻。あの時代を背景に、一人の青年が時代に翻弄され崩壊していくさまを描いて、胸の痛くなる作品です。そんなこともあっただろうと思うと、なおさら切なくなります。


魯迅は、東北大学で医師を志していました。しかし、日本軍の侵攻に抵抗できない中国の人々を、在学中にニュース映像で見てしまうのです。そして、「体を治すより中国の人の精神を作り上げたい、文学によって」と決心します。

彼の発表する作品は、新しい中国を模索する為政者の指針になります。孫文や毛沢東が、彼に注目するのです。

そんな状況では、どんな小説を書いても「政治的意図がある」と、思われかねません。魯迅の作品は、政治の色メガネで見られすぎだと、思うのです。
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